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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)1182号 判決

原告

田中美智子

ほか三名

被告

竹内運送株式会社

ほか一名

主文

被告竹内運送株式会社は、原告田中美智子に対し、金四六万九三六一円およびうち金四六万六八六一円に対する昭和五〇年三月二八日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告田中隆明、同田中敏彰、同池三恵子に対し、それぞれ金三二万三七四二円宛およびうち各金三二万一二四二円宛に対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告らの被告有馬茂二に対する請求および被告竹内運送株式会社に対するその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らと被告有馬との間に生じた分はこれを全部原告らの負担とし、原告らと被告竹内運送株式会社との間に生じた分は、これを四分し、その三を原告らの負担とし、その一を被告会社の負担とし、参加によりて生じた分に補助参加人の負担とする。

この判決は原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは各自、原告田中美智子に対し、金三五二万一六三四円およびうち金三三七万一六三四円に対する昭和五〇年三月二八日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告田中敏彰、田中隆明、池三恵子に対し、それぞれ金二四〇万七七五六円およびうち金二二五万七七五六円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四八年四月一八日午後一〇時五五分頃

2  場所 大阪府池田市東山町六〇番地先府道池田亀岡線上

3  加害車 普通貨物自動車(大阪一一あ四二九三号)

右運転者 被告有馬茂二

4  被害者 訴外田中常之(大正一一年一月一日生)

5  態様 訴外田中常之(当時五一歳)は自動車(泉四四の七〇六二号、ライトバン)を運転して、南進していたが、事故発生地点付近に道路の路面にくぼみがあつたので、道路中央部を進行していたところ、被告有馬運転の加害車も同様道路中央部を進行していたので接触衝突した。

このため右田中は脳挫傷、胸部挫傷で事故受傷約三〇分後に死亡した。

二  責任原因

1  運行供用者責任(自動車損害賠償保障法三条)

被告竹内運送株式会社(以下被告会社という)は、加害車を所有し、業務用に使用し、自己のために運行の用に供していた。

2  使用者責任(民法七一五条一項)

被告会社は、被告有馬茂二を雇用し、同人が被告会社の業務の執行として加害車を運転中、後記過失により本件事故を発生させた。

3  一般不法行為責任(民法七〇九条)

事故発生道路は直線道路であつて、対向車線の状況は判然としていて、田中運転車が道路状況に影響されている状況は事故発生前より被告有馬においても十分に認識し得たものであるのに、被告有馬に前方不注視および回避譲措置不適当の過失があつたため本件事故を発生させた。なおこの点につき詳述すると、加害自動車運転手である被告有馬に過失があつたこと、またそれは本件事故発生および損害拡大に関する被害者田中常之の過失に比して大である。

即ち、加害車は対向車線上の自車前方相当距離の地点で被害車(田中常之運転車)が進路に異常なぶれを生じハンドルをとられたような状況を現認したのであるから(ベテラン運転手である有馬にはハンドルをとられている様子は容易に解つた筈である)、これに対応し、衝突を回避すべくブレーキ操作、ハンドル操作をすべきであり、これができたにもかかわらず、これを為さず漫然と同一速度で進行した過失がある。

以上の如くであるから、加害車が相当な処置をとつていたなら衝突は回避できた。

つぎに加害車の発見距離の確定上、重要なのはその速度であるが、事故発生時刻ごろは大型車が相当な速度(時速七、八〇キロメートル)で走つている時間帯であるこのような場合加害車だけが制限速度内で走つていたとは到底考えることができない。

このことから当時の加害車の速度も時速七、八〇キロメートルと認めるのが極めて自然である。

そうすると加害車が被害車の異常なぶれを最初に発見したのは実況見分調書のそれよりはるかに南方であつて(この点で実況見分調書に指示説明されている前方距離は、交通事故において一般的に言いうることであるが、とくに本件においては被害者が死亡し、事故の実況見分調書等は加害者の一方的言い分に基づくものでその客観的価値に相当減殺して評価すべきである)、両車の距離からすれば、衝突回避は可能であつた。

仮りに衝突回避が不可能であつたとしても前述の処置をとつていたならば、衝突時の衝撃が異なり被害者が死亡していなかつたであろうことは見易い道理である。

加害車は二〇トンの大型車であつて、かゝる車両の運転者は自己の車両の危険性を十分認識し、衝突回避の措置を講ずべきである。

加害車は自車の運転席の安全性におごり、大型車運転者の常としてかゝる措置を講じなかつたものと推断できる。

一方、被害車の走行状況についてはその進行速度について田中車の後方を走行していた訴外中島大助は時速七〇キロメートルで走つていたが、約七〇〇メートルの間で九〇メートルの差が開いたというのであるから、被害車の進行速度は時速約八〇キロメートルとなる。

これは前記推定にかゝる加害車の速度とほゞ同一で、被害車には事故発生個所北方の道路の段差穴ぼこ凹にハンドルをとられ、対向車線に入りそうになり、左にハンドルをとつたためにガードレールに当りそうになつて右にハンドルを切つたために本件事故に至つたというハンドル操作の誤まりがあるだけで制限速度違反があつたとしても、それは本件事故の原因とはならない。

このように、被害者の事故原因への寄与度は少なく、被害者がもし相当な猛スピードで走行していたとすれば転覆後速度計器に興味をもち、誰かが注意してこれを観察し、記録ないしは記憶している筈であるが、そのような形跡は全くない。

三  損害

1  本件事故により被害者である訴外田中常之が死亡したことは一の5末尾に掲記のとおり。

2  被害者の権利の承継

原告田中美智子は田中常之の妻、原告池三恵子、同田中隆明、同田中敏彰はいずれも常之の子であるところ、右常之の死亡により、それぞれ法定相続分に従つて右常之が有していた権利義務一切を相続により承継取得した。

3  治療関係費

治療費 八四六〇円

4  死亡による逸失利益

訴外田中常之は事故当時五一歳で、一か年に三〇〇万円を下らない収入を得ていたものであるところ、同人の就労可能年数は死亡時から一二年、生活費は収入の五〇%と考えられるから、同人の死亡による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利益を控除して算定すると、一三八二万二五〇〇円となる。

(三、〇〇〇、〇〇〇×〇・五×九、二一五=一三八二二五〇〇)

5  慰藉料

訴外田中常之は原告らの父および夫として、一家の精神的、経済的中心であつただけにこれを失つた原告ら家族の打撃は極めて大きいうえ、常之は未だ働きざかりであり、長男らもまだ若年で遺族の生活に与える混乱はまさに致命的である。

よつて慰藉料は原告田中美智子に一六六万六六六七円、同田中敏彰、同田中隆明、同池三恵子に各一一一万一一一一円宛が相当

6  葬祭費 五〇万円

7  弁護士費用 七二万円(原告ら均分負担)

四  過失相殺

本件事故の発生については被害者田中常之にも過失があることは認めるが、損害賠償額の算定にあたり過失相殺されるべき程度は弁護士費用を除いた額の三〇%とみるのが相当である。

五  損害の填補

原告らは次のとおり支払を受けた。

自賠責保険金 三五〇万六七六八円

六  本訴請求

よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。ただし弁護士費用のうち六〇万円に対する遅延損害金は請求しない。)を求める。

第三原告補助参加人の主張

本件交通事故は原告ら主張のとおり訴外田中常之と被告有馬茂二双方の自動車運転上の過失によつて発生したもので、原告ら補助参加人大阪府に本件事故発生道路の管理に瑕疵はなかつた。

即ち、府道池田、亀岡線は比較的交通量の多い道路で自動車交通量は同線の池田市伏尾で昭和四七年一〇月二四日の午前七時から午後七時までで五四五三台、昭和四八年一〇月一二日の同時間帯で六〇〇六台であつた。

この伏尾は本件事故発生場所の北方約一・五キロメートルのところで本件事故発生場所の交通量とほぼ同じ交通量(一時間当り平均四五〇―五〇〇台)である。

このように多数の自動車が通行しているにもかかわらず、本件事故発生場所には本件事故以外に事故発生はなく、多数自動車は安全に通行していた。

さらに大阪府池田土木事務所においては平常業務として道路パトロール車によつて、道路巡視を行なつているが、本件事故発生時の前後二か月間(三月、四月)の巡視、とくに事故直前の昭和四八年四月一三日の道路巡視によつても、本件事故発生場所付近道路において自動車の運行の支障となるような道路の異状を認めていない。

さらに本件に即して具体的にみるに、田中常之車が道路の穴にハンドルをとられた事実はなく、当該穴を避ける措置をとつたこともない。

従つてもしその主張のような穴があつたとしても、それと本件事故発生との間に因果関係はない。

第四請求原因に対する被告らの答弁

一の1ないし4は認めるが、5は争う。

田中常之が脳挫傷、胸部挫傷で事故発生約三〇分後に死亡したことは不知。

二の1は認める。

二の2は過失の点を除き認める。

二の3は争う。

三(損害)は全て不知。

四(過失相殺)は本件事故は訴外田中常之の一方的過失によるものであると考えるので争う。

五(損害の填補)は認める。

第五被告らの主張

一  免責

本件事故は訴外田中常之の一方的過失によつて発生したものであり、被告有馬には何ら過失がなかつたし、被告会社は本件事故に関し加害車の運行について注意を怠らなかつた。かつ加害車には構造上の欠陥または機能の障害がなかつたから、被告会社には損害賠償責任がない。

即ち、

本件事故発生の状況

訴外田中常之は時速八〇ないし九〇キロメートルの速度で南進し、事故現場手前で普通乗用車を追越し、現場に差しかかつたところ、事故現場付近にあつた五、六個の道路のくぼみにバウンドしてハンドルをとられ、バランスを失つて車は左へ進みかけたが、路面の砂利と交差点付近の路面段差のために進行方向を思うように修正できず、道路両側の歩道との境に設けられたガードレールに衝突しそうになつた。

そこで同人がハンドルを急に操作したため(おそらく右へ切つたと思われる)、今度は車が右へ急進し対向車線に突込みかけ、同人は急ブレーキをかけたが間に合わず、車は急角度で以つて進入し、おりから対向車線を時速五〇キロメートルで北進中であつた被告有馬運転の車の右側面に対向車線に相当侵入した地点で衝突したものである。

この衝撃で田中運転車は自車左後方へ飛ばされてガードレールにぶつかり横転して停止した。

このように本件事故の原因は一方的に訴外田中常之の速度の出し過ぎ、ハンドル操作の不適当によるセンターラインオーバーという過失にある。

被告有馬は前方の対向車線方向も注視しながら制限時速で自車走行車線中央部あたりを走行していたが、田中車の対向車線進入はあまりに突然で回避措置をとる間は全くなかつた。

二  損害の填補

本件事故による損害については、原告らが自認している分以外に、次のとおり損害の填補がなされている。

原告田中美智子は労災保険より、遺族年金として昭和五一年一月までに四〇万三五四六円、同年二月に一八万円(合計五八万三五四六円)を受領している。

第六被告らの主張に対する原告らの答弁

原告田中美智子が労災保険より被告ら主張の五八万三五四六円を受領している事実は認める。

証拠〔略〕

理由

第一事故の発生

請求原因一の1ないし4の事実は、当事者間に争いがなく、同5の事故の態様については後記第二の二で認定するとおりである。

第二責任原因

一  運行供用者責任

請求原因二の1の事実は、当事者間に争いがない。従つて、被告会社は自賠法三条により、後記免責の抗弁が認められない限り、本件事故による原告らの損害を賠償する責任がある。

二  一般不法行為責任

(一)  成立に争いのない甲第一号証の一ないし六、甲第三四号証、乙第一、二、三号証、被告有馬茂二本人尋問の結果およびこれにより成立および本件事故との関連性を認められる検乙第一号証の一、二、三、第二号証、証人藤木幾吉、同中嶋大助、同水田義博の各証言と弁論の全趣旨を綜合すると、つぎのような事実が認定できる。

1 事故発生現場道路は幅員八・七メートルのアスフアルト舗装された車道で、この道路西、東両側にはそれぞれ幅員各一・五メートルの歩道があるが、これとはいずれもガードレールによつて区分されている。

右車道中央には白線でセンターラインが設けられ、北行き車線は幅員四・一五メートル、南行き車線は四・五五メートル。

この道路のみとおし状況は南行きは右にゆるくカーブしているが殆んど直線で、前方のみとおしは南行き、北行きともによく、車両走行速度は時速五〇キロメートルに制限され、事故当時路面は乾燥していた。

さらに右府道と交差する池田市道は東西道路ともアスフアルト舗装され、交差点東側は幅員五・五メートル、西側は四・六メートル。

この府道南行車線東山交差点北側横断歩道から五メートル地点から、北方に一八メートルの間に路面にくぼみがあり、この交差点内南行車線側が道路中央から約三・五メートルのところが、道路中央より約一〇センチメートル低くなつている。

2 被告有馬は加害自動車(一一トン貨物自動車車長一〇・八九メートル、車幅二・五〇メートル)を運転して時速約五〇キロメートル(被告有馬茂二本人尋問の結果、検乙第二号証による)で右府道北行き車線を走行していたところ、自車前方七六・五メートル先に南行車線内を時速七〇ないし八〇キロメートルくらいで対面進行してくる田中常之運転車を発見したが、さらに一二・九メートル程進んだころ、約四三メートル先で(ちようど本件府道と池田市道との交差点内にあたる)田中車が車頭を少し左にふつて急に左に寄つたような気がし、幾分異常を感じたものの、なおハンドル、ブレーキ等はそのままの状態で約一四メートル走行したところ今度は田中車が車体を右にふつて自車の方に寄つてくるのを感じた、この直後(この直後という間に自車は約三メートル進行した)、センターラインを約六〇センチメートル超えてきた田中車右前角部と有馬車右側面部が接触した。

(事故直後の実況見分結果(乙第一号証)によつても有馬車は前部バンバーから〇・五メートルのところから後部へ七・五メートルにかけて、右側面部に接触こんが残つており、前部から五メートル、右後輪の前に設置されている油タンクが脱落していた。一方田中車は前部大破左側面を下に横転し運転席右側ドアが断落していた。)

なお有馬車は当初田中車に気づいた時点から右接触時まで少くとも三〇メートルを進行する間一貫してセンターラインから約六〇センチメートル内側に自車車体右側面部が位置するあたりを従前の速度で直進しており、この間ハンドルを左右に切つたことはない。

また原告田中美智子本人尋問の結果中の常之は時速四〇キロメートルでまつすぐ走つてきて事故になつたとの点、成立に争いのない甲第一号証の七記載の事故態様は証人竹内清子の証言、被告有馬茂二本人尋問の結果および第二の二冒頭掲記各証拠に徴してにわかに信用しがたく、他に右認定に反する証拠はない。

(二)  右認定事実にもとづき被告有馬に進路前方注視不十分事故回避措置不適切の過失があつたか否かについてみるに、

まず七六・五メートル先に田中車に気づいた時点では有馬において田中車がかなり高速で走行していたことに気付き得たとはいえ、対向車線内を走行している車両の動静にまで十分な注意を払うべき義務は原則的にはないというべきである。

しかしながら、本件にあつては、自車前方四三メートルの地点では田中車の動静の異常に気づいたのであり、もはやこの段階においては高速走行で左にふらつきをおこせば、それを調整するためハンドルを右に切り返し、自車線の方に接近してくることも予測でき、衝突ないし接触の危険が予見可能な状態になつたというべきであるから、有馬もただちにできる限り道路左一杯に寄つて(約一メートル寄れる)進行するとともに、ついで制動措置をもとるべきであつたのにこれらの措置をとらないで進行した点では事故(結果)回避措置不適切の所為があつたことは一応これを否定できないところではある。

そうしてこの回避措置がとられていたならば田中車の前記速度からしてまず接触前に有馬車が停車することは不可能ではあるが、田中に与える動揺は少なく、有馬車の速度が落ちていること、

田中車(車幅一・六一メートル、車長四・〇五メートル)と有馬車との側方間隔に事故時より約一メートル余裕ができること、そうすれば前記接触の態様からみて田中においても接触を回避し得たのではないかとみられる余地があり、それが無理だとしても少くともこれらの措置を尽していたとしても到底接触は避けられず、田中の死亡は防げなかつたとまで認めるに足るだけの証拠はない。(この点証人中嶋大助の証言、および被告有馬茂二本人尋問の結果中、本件接触は到底避けられない旨の供述は前記認定事実からみても、にわかに信用できない。)そうすると、積極的に被告有馬の前記回避措置不適当と本件事故発生との間に相当因果関係の存在を肯定することができない点で民法七〇九条によつて、被告有馬に本件事故による損害賠償責任を問うことは過失行為と死亡という結果との因果関係存在をも含めた事項につき立証責任が原告らにあることからして困難であるという外ないが、逆にまた加害自動車運転手たる被告有馬に自動車運行上の過失(注意義務違背行為)がなく、たとえこれがあつたとしてもそれと本件事故発生との間には相当因果関係がないことを認めるに足る証拠もないので、結局被告会社は右被告有馬の無過失を立証し得ないことに帰するから免責の抗弁は理由がなく、従つて被告会社は前示のとおり本件事故による原告らの損害を賠償する責任がある。

第三損害

1  田中常之受傷、死亡、これに伴う権利承継

成立に争いのない甲第一号証の一、証人藤木幾吉の証言、原告田中美智子本人尋問の結果と、弁論の全趣旨(本件記録中の訴状添付戸籍謄本)によれば、請求原因三1、2の事実が認められる。

2  治療関係費

治療費

成立に争いのない甲第一号証の一および原告田中美智子本人尋問の結果によれば訴外田中常之は本件事故により受傷し、死亡するまでに金八四六〇円の治療費を要したことが認められる。

3  死亡による逸失利益

証人藤木幾吉の証言、原告田中美智子本人尋問の結果およびこれによつて真正に成立したものと認められる甲第三、第四号証によれば、訴外田中常之は事故当時五一才で、岸和田莫大小株式会社に勤務し、同社での事故前年の昭和四七年中における年収は一五七万二〇〇〇円であつたことからみて、事故当時も少くともこれを下廻らない年収を得ていたものと認めるのが相当であるところ、同人の就労可能年数は死亡時から六七才迄一六年、生活費は常之の家庭内における立場、後記家族構成からみて収入の三〇%と考えられるから、同人の死亡による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、一二六九万四五四四円となる。

(一、五七二、〇〇〇×〇・七×一一、五三六三=一二、六九四、五四四)

なお右原告田中美智子本人尋問の結果およびこれによつてその成立を認めることができる甲第二号証によると、訴外田中常之は前記岸和田莫大小に毎日勤める傍ら朝とか会社が退けた後、自宅で妻と雇人一人とでしていたベビー用品のセーターのワインダーに糸を巻く仕事に加わり、常之は主として註文取りとでき上つたものを運搬することを担当していたこと。これによる昭和四七年売上げ総額は二五五万〇九五一円、昭和四六年におけるそれは三三八万〇九七二円で、このうち約半分がいずれも人件費となり、残りのうちから機械の維持費、部品代等を除いたものが常之と妻の収入となることがうかがわれ、原告田中美智子もこれと前記岸和田莫大小からの収入と合せると、常之には年収二五〇万円くらいの収入があつたと供述するのであるが、右供述内容や証人藤木幾吉の証言からしてもその仕事の主たる部分は雇人と妻がしており、常之の寄与分は大したものでないことがうかゞわれるばかりか、右収入額自体についても糸くりの仕事による収入について、所得税の申告は常之名義でしていたと述べながらもその申告資料の提出もないので、前記証拠のみをもつてしてはいまだ常之の年収を二五〇万円程度であつたと認めることはできないので、結局前記限度の認定にとどめた。

4  葬祭費

原告田中美智子本人尋問の結果およびこれによつて真正に成立したものと認められる甲第五号証ないし甲第三三号証によれば、原告らは亡田中常之の葬儀関係費として金五〇万円を超える出捐をなしたことが認められるけれども、経験則上当時の社会的に相当な葬祭費の額は三〇万円と考えられるので右の限度においては本件事故による損害と認めるが、右金額を超える分については本件事故と相当因果関係を認め難い。

5  慰藉料

本件事故の態様、訴外田中常之の受傷から死亡までの経過、同人の年齢、親族関係(常之死亡時妻美智子は四六歳、長女三恵子は二四歳で前年婚姻したばかりであり、長男隆明は一七歳、次男敏彰は一四歳であつたことが本件記録中の戸籍謄本より認められる)、その他諸般の事情を考えあわせると、原告田中美智子の慰藉料額は一六六万六六六七円、原告池三恵子、同田中隆明、同田中敏彰の慰藉料額はそれぞれ一一一万一一一一円宛とするのが相当であると認められる。

第四過失相殺

前記第二の二認定の事実によれば、本件事故の発生については被害者である亡田中常之にも高速(制限速度違反)運転によるセンターラインナーバーという極めて重大な過失が認められるところ、前記認定の被告らの事故への関与の態様、事故車双方の車種の差異、死亡という発生した結果の重大さ等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告らの損害の七割を減ずるのが相当と認められる。

第五損害の填補

請求原因五の事実およびその他に原告田中美智子において労災保険より金五八万三五四六円を受領している事実は、当事者間に争がない。

よつて原告らの前記損害額から右填補分四〇九万〇三一四円を差引くと、残損害額は一三一万〇五八七円となる。

第六弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告らが被告会社に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は各原告につきそれぞれ三万二五〇〇円宛とするのが相当であると認められる。

第七結論

よつて被告竹内運送株式会社は、原告田中美智子に対し、四六万九三六一円、およびうち四六万六八六一円に対し、原告田中隆明、同田中敏彰、同池三恵子に対しそれぞれ三二万三七四二円、うち各金三二万一二四二円宛に対し、右被告に訴状送達の翌日であることが本件記録上明らかな昭和五〇年三月二八日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があり、原告らの本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、被告有馬茂二に対する請求および被告竹内運送株式会社に対するその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、九四条後段、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 相瑞一雄)

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